憲法・地方自治法施行70年 地域と自治体を私たちの手に
第45回神奈川自治体学校
11月12日,
かながわ労働プラザで第45回神奈川自治体学校が開催されました。
午前中の全体会148人、午後の分科会に148人の参加がありました。
今年の自治体学校は、憲法と地方自治の危機が叫ばれる中、憲法と地方自治を取り戻すためにはどうするか、
みんなで考えていこうというのがテーマでした。
芝田英昭先生の記念講演をはじめ、参加者に大きな感銘を与えた自治体学校でした。
学校は、神奈川自治労連書記長・水野博さんの司会で始まり、学校長の大須眞治神奈川自治体問題研究所理事長(中央大学名誉教授)が開校のあいさつをしました。
あいさつの中で大須先生は、次のように述べました。
「今年の神奈川自治体学校のテーマは「憲法・地方自治法施行70年 地域と自治体を私たちの手に」となっています。地方自治法も憲法とならんで重要だと言っています。
専修大学の白藤博行先生が今年出された『地方自治法への招待』という本の中で、日本国憲法が、国民主権、基本的人権の保障、そして平和主義を基本三原則としていることは
とても重要です。しかし、地方自治保障がいわば「第四の基本原則」であることも忘れてはならない。憲法の地方自治の保障が自治体における住民の自治が重要である
。住民自治による民主主義の実現という意味があることを理解しなくてはなりませんと、強調しています。
昨年から私の住んでいる町の小田原市と隣町の南足柄市との合併が問題となりました。
この合併の問題を考えるときに、自分の自治体に自信を持つことが重要だと思う。
小田原も南足柄も財政力指数は高いので、急いで合併する財政状況ではない。
住民・自治体労働者・自治体というのが基本にあって日本という国が成り立っているということを自覚して住民にとって住みやすい町をつくることではないかと思います。
今日は知恵を出し合って地域の問題を解決していく、そういう学校にしていきたい」と述べました。
次に、自治体学校実行委員長の高橋輝雄・神奈川自治労連委員長があいさつしました。
高橋さんは、次のようにあいさつしました。
「昨日9条神奈川の会の講演会があり、ドイツ文学者の池田香代子さんが 講演されました。終わった後の懇談の中で、ナチスから迫害を受けた、
ユダヤ系ドイツ人哲学者のハンナアーレントの話になり、『今はアーレントの時代ですね』と話していたのが印象的でした。アーレントは次のように言っています。
「あの狂気はなぜ起こったのか。そして、なぜ誰もそれを止めることができなかったのか」と。
最も大切なことは、「違和感」の問題です。アーレントはプロパガンダとテロルが日常に埋め込まれるようになると、「違和感」が消し去られるとも指摘しています。
毎日のように、Jアラートが鳴らされ、戦争の危機が言われ続けているといつしか慣らされてしまいがちだ。戦争と全体主義の危機に対抗してなにが必要か。
憲法や地方自治、住民生活の現状と人権について常に感覚を研ぎ澄まし、必要な情報発信を行っていくことが求められています。
そこで地方自治体と労働運動はますます大きな役割を担っていくだろうと確信しています。」と結びました。
次に立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科教授・芝田英昭氏による記念講演が行われました。
演題は、「『我が事・丸ごと』地域共生社会で、どう変わる社会保障〜自治体・地域住民の共同の運動・実践が輝く未来へ」。
芝田氏は大要次のように述べました。
『我が事・丸ごと』地域共生社会とは何か
今日話すテーマは良くわからない、いったい何のことだろうという印象を与える。「『我が事・丸ごと』地域共生社会」という言葉は昨年7月15日の、厚?生労働省に設置された
『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部の第?回会合で出てきたものだ。この時「地域包括ケアの深化・地域共生社会の実現という文書を出した。
2 0 1 7 年2月7日、『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部の 「『地域共生社会』の実現に向けて( 当面の改革工程)」が閣議決定された。
これによると、2020年までに介護保険制度や医療保険制度等の様々な改定を行うとしている。
改革工程が閣議決定された同じ日、「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の?部を改正する法律案が閣議決定され、2 0 1 7 年5月2 6日参議院本会議にて
可決・成立している。それでは、『我が事・丸ごと』地域共生社会とはどういうことか。
今年の5月改正された、介護保険法等改正法は、介護保険法、健康保険法、児童福祉法、医療法、社会福祉法、老人福祉法、地域保健法、生活保護法、地域再生法、
子ども・子育て支援法等を含む31法の一括改正である。これらは何を意味するか。
私たちは日々生活する中で様々な生活問題を抱えている。実現本部は、「地域共生社会」の名の下に、地域に生起するあらゆる課題・問題を地域住民が自助・共助を基本に
解決していこうという方向性を示したものだ。これは憲法が示している生存権を公的責任のもと具現化した社会保障制度の基盤を揺るがす重大な問題を含んでいる。
また、憲法の改悪を促進するものだ。
改革工程本文中に、「社会保障」の単語は4 度しか使?用されていない。ほとんどが社会保障を「公的な支援制度」、「公的支援」、「保健福祉」、「福祉分野、保健・医療」、
「保健、医療、福祉」と言い換えている。
我々が使ってきた「社会保険、社会福祉、社会保障・・・」という「社会」が付く言葉は、社会保障の公的な性格、公的な責任を示すものだ。
しかし実現本部はこの考え方を否定する。実現本部は「社会保障」が必要となった背景を、「戦後、高度成長期を経て今日に至るまで、工業化に伴う人々の都市部への移動、
個人主義化や核家族化、共働き世帯の増加などの社会の変化の過程において、地域や家庭が果たしてきた役割の一部を代替する必要性が高まってきた。
これに応える形で、疾病や障害・介護、出産・子育てなど、人生における支援が必要となる典型的な要因を想定し、高齢者、障害者子どもなどの対象者ごとに、公的な支援制度が整
備されてきた」とする。
この文章は、改革工程の最初に記述されており、実現本部が社会保障をどう理解したのかを示している。一見正しいことを言っているようだが、つまり、社会保障は、地域や家庭
が果たしてきた役割の代替なのであるという考え方だ。しかし、我々が生きている現代社会( 資本主義社会)は、生産手段を所有しているもの以外は、賃金労働者であり自らが持て
る労働力を売ることで初めて生活( 労働力の再生産) できる。
ただ、賃金は、労働力の価値に対しての対価であることから、個々人が抱える生活問題( 生活過程に起こる社会問題。具体的には、失業、保育、介護、疾病、障害などから生起する
生活困難等) 全てを個人で解決できるだけの金額は支払われない。したがって、労働者が生活問題を抱えれば、いともたやすく人が人らしく生きるレベル( 健康で文化的な生活)
を下回り、生存権が侵害される。社会保障は生活問題を緩和・解決するための制度・政策であり、そのことを通して生存権を保障する機能を有している。
改革工程には、この観点が
全く欠落している、というよりは意図的に歪曲したと捉えるべきだ。社会保障( 改革工程では公的な支援制度等としている)を、家庭や地域の役割の代替制度だとすることで、地域
課題解決の責任を地域住民や個人にすり替えることが可能となる。自助・共助を強調することは、憲法改正につながる。
実現本部が言う「地域共生社会」とは、「地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、
住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」だとする。
理念的には間違ってはいない。しかし、実態は国や自治体の責任を曖昧にし、地域住民に地域生活課題解決の責任を丸ごと丸投げする方向性とも受け取れる。
介護保険法等改正法の中の社会福祉法改正法では、4 条( 地域福祉の推進) に新たに2 項が加えられた。残念ながらこのことに気付いた人は少なかった。
加えられた部分は、「地域住民等は、地域福祉の推進に当たっては、福祉サービスを必要とする地域住民及びその世帯が抱える福祉、介護、介護予防、保健医療、住まい、
就労及び教育に関する課題、福祉サービスを必要とする地域住民の地域社会からの孤?立その他の福祉サービスを必要とする地域住民が日常生活を営み、あらゆる分野の活動に
参加する機会が確保される上での各般の課題( 地域生活課題)を把握し、地域生活課題の解決に資する支援を行う関係機関との連携等によりその解決を図るよう特に留意する
ものとする。としている。
確かに、地域住民が抱える課題は、多岐にわたり「福祉領域」に限定するのは困難であろう。ただ、同項の主語が「地域住民等」で、地域住民が関係機関と連携し解決を図るように
するとしており、自治体や公的団体の役割を副次的に捉え、地域住民を主体化しているが、地域における地域力には相当の格差がある中での責任の丸投げは、結果的には生活問題の
解決にはつながらず、地域住民の主体性との美名の下に生活問題が解決されず放置される可能性がある。
福祉にとどまらず、住まい、就労、教育、孤立や参加までを包摂した課題を、地域住民自らが解決を図れとしているが、国は2 0 1 7 年度予算において、社会保障自然増分
6 4 0 0 億円( 概算要求) を4 9 9 7 億円に圧縮している事実に鑑みれば、社会保障予算削減とセットでの地域共生社会の提案であることは極めて矛盾している。
地域生活課題に関しては、地域住民が自ら共同の運動の一環として取り組むことは重要だが、しかし、国家が上意下達的に自治体の責任を曖昧にして地域住?民に丸投げすれば、
地域間格差が拡大し、ますます地域が疲弊することは明らかだ。
地域共生社会の実現は、地域住民に共助を強制するだけではなく、その先にある憲法改正への布石と見るべきだ。
2 0 1 2 年4 月2 7 日に決定された自由民主党の「日本国憲法改正草案」前文は、「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、
和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成するとし、自助・互助を謳っており、この点こそが、地域共生社会とも共通する「精神」だ。
総合的相談窓口の設置
「地域の住民が抱える課題について、分野を超え『丸ごと』の相談を受け止める場」を設置するとし、住民が抱える課題は、福祉分野だけではなく、保健・医療、権利擁護、雇用
・就労、産業、教育、住まいなど多様である。これらの多様な分野の相談窓口の一元化を、社会福祉の窓口として行うとしているが無理であろう。
だが、先ず2017年度全国100カ所でモデル事業として実施し、法成立を受けて2018年度より全国で実施するとしている。相談窓口の一元化それ自体は、住?民の利便性や抱える
課題の複合化を考えれば必要かもしれない。
しかし、この相談を担う体制は、「例えば、地区社協、市町村社協の地区担当、地域包括支援センター、相談支援事業所、地域?育て支援拠点、利?用者支援事業、社会福祉法人、
N P O 法人等」とし、自治体が公的責任に則り独自に総合的相談窓口を設置するのではなく、社協等に委託するとしている。社協は喜んでいるが果たしてできるのかどうか、
相談窓口ではなくゲートキーパーになるのではないかと危惧している。
これまで自治体が直接行ってきた福祉関係の相談や様々な行政サービスも外部化・縮小が懸念される。いわば、公助の縮小を共助( 住民同士の助け合い) にすり替えるといっても
過言ではない。
共生型サービスの創設は、介護保険法と障害者総合支援法の一元化の第一歩
介護護保険法等改正法案は、「高齢者と障害者が同一事業所でサービスを受けやすくするため、介護保険と障害福祉制度に新たに共生型サービスを位置付ける」児童福祉法上の指
定事業者( 居宅サービス等の種類に該当する障害児通所支援に係るものに限定)、または障害者総合支援法上の指定事業者( 居宅サービス等の種類に該当する障害福祉サービスに
係るものに限定)から、介護保険法の訪問介護・通所介護等の居宅サービス事業に申請があった場合、当該事業に照らして、都道府県または市町村が「共生型サービス事業者」に
指定する。
介護保険には65歳問題が存在し、障害者が64歳までは障害者総合支援法上のサービスを利用しているが、65歳を境に多くが介護保険優先の名の下に、介護保険指定事業者への
サービスに移行することを求められている。その意味では、共生型サービスであれば、同じ事業所からのサービスを継続できる優位点は存在する。
しかし、障害者にとって64歳までのサービス量は、65歳からの介護保険用で激減し、自己負担も増えているのが実態である。この点の改善がないまま、
同一事業所でサービスが受けられるメリッットを強調しても、当事者の納得は得られない。また、共生型サービス導入の狙いは、介護保険法と障害者総合支援法の統合であり、
その第一歩であると見るべき。共生型サービスの導入で、サービス供給面において両法の統合を図り( 報酬は、それぞれ別で支出される)、その利便性を誇張して、
一気に統合への道筋をつけると見るべきだ。両法が統合されれば、国民全てが被保険者となり、障害者も含めて総て国民が保険料の支払いを求められる。
統合された介護保険から障害者がサービスを利?用する場合も、介護保険法上の自己負担が求められる。少なくとも、障害当事者抜きでこのような流れが作り出されるのは、
民主党政権時の歴史的基本合意や障害者の権利に関する条約の「前文( O ) 障害者が、政策及び計画( 障害者に直接関連する政策及び計画を含む) に係る意思決定の過程に
積極的に関与する機会を有すべきである」に反すると言わざるを得ない。
3割負担の導入と介護納付金への総報酬割制の導入
2 0 1 5 年8 ?月より2 8 0 万円を超える人の負担が2 割になっており、これからは現役並所得( 単身者、年金収入だけで383万円)の利?用料負担を3 割にする。
厚労省は応能負担としているが、今後自己負担割合が3 割、2 割、1 割が存在し、結果3 割が標準負担であり、2 割や1 割負担を軽減負担とみなす可能性が高い。
今日まで社会保障運動の一部では、自己負担は所得に応じて支出されるべきとの“ 応能負担原則” を掲げてきた。厚生労働省は、一定所得以上の所得のある人を対象に3 割負担に
することで、国民要求に応え応能負担を導入したと思わせる効果性を狙ったものだ。社会保険の原理原則を考えれば、社会保険における一部負担・自己負担は、受診抑制を招く
傾向があり、国の医療費・介護費の抑制の一翼を担う可能性が高い。
地域共生社会と国民監視国家の親和性
2013年に「行政?手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)が成立した。2016年明けから自治体においてマイナンバー・カ
ード(任意)の交付が始まったが、交付の際「顔認証システム」での本人確認が行われた。この顔認証データは、破棄されない限り自治体に蓄積される。
「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が2016年5月2 4 日に可決・成立し、取り調べの可視化( 部分的な録音・録画)、司法取引(合意制度等) の導入、通信傍受(盗聴)の
拡大、等が盛り込まれた。捜査当局による盗聴は、国民的批判の下、対象犯罪を薬物、銃器、組織的殺人など、暴力団関係の組織犯罪4 類型に限定し、通信事業者の常時立会いを
義務付けすることで1999年に成立した。
しかし、2016年改正法は、盗聴対象を組織犯罪4 類型から、窃盗、詐欺、恐喝、逮捕監禁、傷害等の?一般犯罪を含む広範囲に拡大し、
実質的に一般市民を盗聴対象とした。通信事業者の立会い義務を外したことで、国家が常時国民を監視できることとなった。
2017年3 月21日には、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正法が6月15日、可決・成立。一連の流れから見えてくるのは、
国民が国家から常時監視されていることで、民主的な政治的発言や行動・活動をしにくくする狙いが透けて見えてくる。
ただ、国家が監視しているだけでは、国民を完全には統制できないことから、一段進んだ形態として、「住民相互の監視システム」を構築させようとしている。それが、まさしく
「現代版隣組制度」としての「地域共生社会」ではなかろうか。
改革工程は、「地域共生社会」の実現が求められる背景を、「歴史的に見ると、かつて我が国では、地域の相互扶助や家族同士の助け合いにより人々の暮らしが支えられてきた」と
し、このような日常の様々な場面における『つながり』の弱まりを背景に、『社会的孤立』や『制度の狭間』などの課題が表?面化している。人と人との繋がりや支え合いにお
いては、支援の必要な人を含め誰しもが役割を持ち、それぞれが、日々の生活における安?心感と生きがいを得ることができる。このような人と人とのつながりの再構築が求められ
ているとしている。
地域共生社会が言う「つながり」は、戦前の相互扶助組織であった隣組制度( 隣保) を想起させる。同組織は、いわゆる「五人組」という部落内の相互扶助・相互監視組織に
まで遡ることができる。日中戦争時に、戦争遂?行・国家監視体制の強化のため、五人組の慣習を発展させ、隣組が強化された。具体的には、1940年9月1 1日通達された「部落会
町内会等整備要領」により、部落会や町内会が戦時国家体制に内包されていった。同要領はその目的( 第一条) に、
一、隣保団結ノ精神ニ基キ市町村住民ヲ組織結合シ万民翼賛ノ本旨ニ則リ地方共同ノ任務ヲ遂?行セシムルコト
二、国民ノ道徳的錬成ト精神的団結ヲ図ルノ基礎組織タラシムルコト
三、国策ヲ汎ク国民ニ透徹セシメ国策万般ノ円滑ナル運用ニ資セシムルコト
四、国民経済生活ノ地域的統制単位トシテ統制経済ノ運用ト国民生活ノ安定上必要ナル機能ヲ発揮セシムルコト
とし、第二条十のロ項では、本内務省訓令の目的を達成するために
「部落会及町内常会ハ第一ノ目的ヲ達成スル爲物心両面ニ亘リ住民生活各般ノ事項ヲ協議シ住民相互ノ教化向上ヲ図ルコト」とした。
これは、地域共生社会の実現に向けてこの程改正され、社会福祉法4 条に新たに加えられた2 項に通じる思想とも読み取れる。「部落会及町内常会ハ」は「地域住民等は」に、
「住民生活各般ノ事項」は「地域生活課題」に、「協議シ住民相互ノ教化向上ヲ図ルコト」は「関係機関との連携等によりその解決を図るよう特に留意するものとする」と読み替えること
も可能だ。
地域社会を、住民自治の観点から論じることは極めて重要であるが、それはあくまでも住民の自発的運動・実践によって達成されるべきであって、国が一律に住民の組織化を奨励
・強制することがあってはならないし、その場合は戦前の隣保組織の体制内化を教訓として学ぶべきである。
今後、地域共生社会が地域生活課題に我が事・丸ごと関わる住民を正統な「国民」、関わらない住民を「非国民」として峻別する「装置」として機能する可能性がある。
おわりに… 共同の力と繰り出し梯子(はしご)理論
シドニー・ウェッブが1 9 1 1 年に著した『防貧策』で、「この「繰り出し梯子」理論 のもと、新たな支援方法を常に追求し、困難な事例に対しても愛情に溢れたケアを?心がけ、( 中略) 公的機関だけによって実施される比較的低水準のサービスを上回るサービスを実践・実施することで、結果的に公的サービスにおける健康で文化的な水準を押し上げる効果がある」と指摘。この「繰り出し梯子理論」には、現代にも通じる示唆がある。
地域における住民共同の運動・実践が、公的サービス( 社会保障やその他の公共サービスも含む) を上回る内容を有することがしばしばある。
この住民共同の運動・実践が、私的サービスを公的サービスに昇華させる流れが、あたかも繰り出し梯子が伸びるように見えることから、そう命名されている。
例えば、介護保険における訪問介護事業は、1 9 5 6 年に長野県で制定された「家庭養護婦派遣事業」を端緒として、その後大阪市など革新自治体に広がり、
結果的に1963年老人福祉法1 2 条に「老人家庭奉仕事業」として法定され、2000年施?行の介護保険法では、8 条2 項に明記された。
保育運動においても、同様の状況があった。1960年代の?高度経済成長に伴い女性労働者の増?の中、労働と保育の両立を求めて、「ポストの数ほど保育所を」を合言葉に
大きな運動が広がり、結果的に公的保育所( 認可保育所等) の増設につながった。
老人医療無料化( 医療保険給付における自己負担の無料化)も、住民共同の運動・実践が結果的に国の制度として位置づけることとなった。
端緒は、岩手県沢内村( 現・西和賀町)の取り組みで、1 9 6 0 年、同村は住民の要求受ける形で、全国で初めて6 5 歳以上の老?人医療の無料化を実施、
翌年には対象を6 0 歳以上に拡大した。これをきっかけに6 0 年代後半以降に老人医療無料化が拡大、1 9 6 9 年革新自治体東京都で7 0 歳以上の医療費無料化実施が画期となり、
1 9 7 3 年1 月から、7 0 歳以上の老人医療費無料化が国の制度として実施された。
現在政府が言う「地域共生社会」は、社会保障等の公的サービスを縮小したところに、その代替として地域住民に地域課題解決責任を押し付けるものであり、
住民共同の運動・実践とは全く異なる。住民共同の運動・実践は、その目的に公的責任の強化、あるいはその実践を公的制度に押し上げる狙いがある。
「地域共生社会」は、そもそも公的責任を捨象し住民の自助・共助( 助け合い)に変質させることが狙いであることを鑑みれば、ますます住民共同の運動・
実践が必要になってきたと言える。
最後に、自治体労働者との共同の大切さに触れ、自治体労働者は、有能であり、住民の専門家である。同様に自治体を敵とみなして対立するのは愚の骨頂である。
知恵を借り、協力協同の関係を築き自治体と地域を発展させていくことが大切であると強調して、講演を締めくくりました。
全体会の最後は特別報告。「小田原市の生活保護バッシングジャンパー問題をどう考えるか」を神奈川県社会保障推進協議会事務局長・根本 隆さんが行いました。
この中で、事件の背景と小田原市の対応について次のように述べました。
小田原市での生活保護ジャンパー着用の発端は、2007年7月の生活保護を打ち切られた男性の切り付け事件が起こり、職員のモチベーションを高めようと係長が発案した。
この背景には、生活保護の「水際作戦」、「適正化」という職務遂行問題があり、人権意識の麻痺・欠落が組織に蔓延していることを物語っている。
2007年以降、内部での着用にとどまっていたが、3〜4年前から冬場の生活保護受給者への訪問に着ていくことになった。
なぜ長い間、問題とされていなかったのか。小田原市には労働組合がない。生健会も西湘地域で広域に活動しており、地域からの運動組織がむずかしかった。
しかしこの事件の背景と問題点は、小田原市単独のものではなく、もっと構造的で深刻なものとして捉える必要がある。自民党政権のもとでの生活保護バッシングの強まりの中で、
生活保護申請を受け付けない「水際作戦」、受給者に就労を強要する「適正化」などの受給抑制が全国的に行われている。
事件が報道された後小田原市には抗議の電話とともに、不正受給をやめさせろという趣旨の電話も多かったと言われている。目に見えないジャンパーを全国の生活保護担当者が着用している。
これは、利用者とその対象者の苦しみとともに、社会保障制度を担う自治体職員全体の苦しみと矛盾である。
小田原市のジャンパー問題発生から、小田原市の対応は的確で迅速であった。3月には「生活保護行政のあり方検討会」を立ち上げ、弁護士の森川清氏や、
当事者である元生活保護利用者がメンバーに入った。
当事者が「受給者でなく、利用者と認識してほしい」と訴えたことにより、小田原市の「保護のしおり」は憲法25条にもとづく制度であることが明記され、
「受給者」が「利用者」となるなど、多くの改善がはかられた。14日ルールの確立など小田原市の取り組もうとしている方向性は真摯なものといえる。
小田原市を孤立させない取り組みが必要になっている。
午後は8つの会場に分かれて分科会が開催されました。
【民営化、公務労働・公共性分科会】
●改めて問う。 地方公務員とは何か
為政者の意向を「忖度」して、いわれなくてもやるのが役人の鏡か。それが、地方公務員の本来の姿・あり方なのでしょうか。
住民との第一線を担い、住民の要望、地域実態から出発して仕事を行う公務員像、憲法を出発点に「あるべき公務員像」と実際の姿、
それが提起する今日的課題について、晴山先生の講演による学習を基礎に議論で深めました。
【講師】専修大学教授・晴山一穂氏
【環境・まちづくり分科会】
●神奈川県下の大規模開発を考える
横浜市が進めているカジノを主体とした新山下ふ頭周辺再開発問題、リニア新幹線の駅計画を梃子として相模原市が進めている橋本駅周辺の開発、
など、これら大規模開発にどう対抗していくのかを報告と討論で深めました。
【報告】
(1) 相模原市リニア新幹線の駅計画梃子として進めている橋本駅・相模原駅周辺の現状について
相模原市会議員 松永 千賀子氏
(2)「横浜市山下ふ頭開発基本計画」について
横浜市会議員 岩崎 ひろし氏
(3)「栄区 上郷開発問題」都市計画法の土俵から外れ、住民投票請求運動へ踏み出す!
「横浜のみどりを未来につなぐ実行委員会」実行委員 井端淑雄氏
【子育て・教育分科会】
●すべてのこどもの成長・発達のために・豊かな学びとは
今回は、和光大学副学長梅原利夫さんを講師に迎えます。道徳教育の教科化そして家庭教育支援法、小学4年から 英語が教科になり、中学生と同じ時間数になるとか。
幼児からますます子どもたちを追い詰めてしまうのでは。子どもが元気に育つ地域、人と人との関係を大切に育てたい。
けれども、ともすると親も「良い子」を求めて追いつめてしまいがち。 「過度に競争的な教育制度」という国連子どもの権利委員会からの懸念に対して、
「そのような認識であれば、その客観的な根拠を示せ」と、日本政府は国連への報告書で述べています。
日本の教育制度に流されることなく私たちが、一人ひとりの子どもの育つ力をサポートできる大人に、そして教育とは何か、話し合いました。
【講師】和光大学副学長・梅原利夫氏
【平和・基地分科会】
●憲法改悪を許さず戦争をさせないために自治体は何ができるのか
安倍内閣の下で戦争法が施行され、共謀罪の強行や北朝鮮の挑発を口実に戦争のできる体制の整備が進められ、軍事費も過去最高の5兆円が計上されています。
基地のある神奈川県では米軍と自衛隊の一体作戦が一層進められ、自治体防災体制の強化を口実に自衛隊の進出も進められています。
基地を抱える自治体のこのような実態を明らかにするとともに、戦争による惨禍を起こさせないために、私達はなにをすべきなのか、自治体はなにをすべきなのか、
考えました。
【講師】神奈川県平和委員会事務局次長・鈴木和弘氏
【地域経済・産業分科会】
●地域経済活性化条例の活用を
県をはじめ、県内のいくつかの自治体で地域経済の振興を図るために、中小企業の活性化を進める条例が制定されています。
その活用について全国の進んだ経験から学び、県内の運動にどのようにいかすかをさぐる分科会でした。
【講師】神奈川県異業種連携協議会事務局次長 愛 賢司氏、全国商工団体連合会から
【社会保障分科会】
●介護保険第7期事業計画でどうなる?地域包括ケアシステムと高齢者のくらし
いま自治体は2018年から3年間の「第7期介護保険事業計画」を作成中です。
横浜市の計画について担当の課長さんから概要を聞き、地域包括ケアシステム構築や国が提起している「我が事・丸ごと」地域共生社会との関係、
今後の介護の課題を、介護現場からの声もまじえながら、考える機会とします。
【講師】武井和弘氏(横浜市健康福祉局高齢健康福祉課長)、介護の現場からの報告
【暮らし分科会】
●食品の原産地表示、機能性食品など表示方法の変化を私たちの生活
食品の原産地表示、JAS法の改正など食品関連の表示の変更がひろがっています。トクホ商品では「過大広告」の問題も出ました。
なぜ今、食品の表示の変更が進められているのでしょう。私たちの生活の安全への影響はどんなことが起こりうるのでしょう。
国の政策の動向や消費・販売・生産の現場で起きていることから考えました。
【報告】 主婦連元会長・山根 香織氏 ほか
【女性分科会】
●「女性への暴力」施策の現状と課題
女性の貧困化も影響し、女性への暴力は深刻さを増しています。被害者は泣き寝入り、加害者への罰則なども埋もれ見えにくくなっています。
2017年6月16日から改正刑法が施行され、強姦罪を強制性交等罪と改め「被害者は女性」という性別規定を撤廃しました。
しかし、強制性交等罪の要件に「暴行または脅迫を用いて」が残され、加害者が身近な人であればあるほど逆らえないなどの課題もあります。
性が商品化され被害女性が広がるなかで、ケアの体制など施策が十分なのか。どのような支援が必要なのか。学習の機会としました。
【報告】
@「女性への暴力(DVをはじめとする)や女性保護事業の実情 」
栗原 ちゆき氏(神奈川県民生福祉協会理事・元神奈川県児童相談所所長・元神奈川県立女性相談所指導課長)
A「 現代における性の商品化を考える」
田口 道子氏(PAPS<ポルノ被害と性暴力を考える会>)
【楽しく学ぶ地方財政講座〜じっくり学ぶ講座第8弾】
●楽しく学ぶ地方財政講座「決算カードを使って財政分析にチャレンジ」
日時:11月19日(日)10:00〜16:30
会場:横浜市健康福祉センター9階903会議室(JR・市営地下鉄、桜木町駅下車5分)講師:内山 正徳氏(神奈川自治体問題研究所副理事長)
参加費:2000円(学生・院生1000円、会員は1500円)
内容:地方財政の基礎/日々の暮らしとまちの財政/資料を使ってまちの財政分析に挑戦
2016年に年開催した、第44回神奈川自治体学校のもようはこちら
2015年に年開催した、第43回神奈川自治体学校のもようはこちら
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